■ 概要 ■
次期の共同利用・共同研究拠点の継続、国際共同利用・共同研究拠点への展開に向けて、東アジアから日本への偏西風・対馬海流による越境汚染物質の移動とその影響評価に加え、これまでの共同研究・観測のネットワークを活用したシベリアから南極にいたる南北測線での越境汚染を評価する国際共同研究を実施する(図参照)。
本申請課題では、さまざまな産業活動に伴い発生する発がん性、変異原性、内分泌攪乱作用を有する有害有機物の多環芳香族炭化水素類に着目し、環日本海域環境研究センターがこれまで構築してきた国際連携網を基盤とした観測ネットワークを活用して、地球全体の越境汚染の全体像把握とヒトの健康・生態系への影響を評価する。中国科学アカデミー大気物理研究所、北京大学、復旦大学とは大気環境領域の研究を共同研究として進めており、ロシア科学アカデミー極東支部太平洋海洋研究所とは科研費、JSPS二国間共同研究、さらに共同利用・共同研究拠点で日本海を中核としつつも周辺環境も含んだ環日本海域、特に極東地域での大気観測、日本海・オホーツク海、さらには北極域での海洋観測を実施している。本申請課題では、中国の教育研究機関とともにロシア太平洋海洋研究所と現在実施している環日本海域での共同研究を継続するとともに、北極圏のシベリアで越境汚染物質のコントロールサイトとしての観測を行う。また、多環芳香族炭化水素類のヒト・生態系への影響評価手法の開発と,金沢・北京・上海での評価を実施する。東南アジアではシンガポールを拠点に、インドネシアの泥炭地や森林での火災により発生するヘイズ(煙害)の越境汚染の影響をYale-NUS collegeとの共同研究で解析する。オセアニア地域、とくにオーストラリアからの越境汚染に関しては、ニュージーランドのオークランド工科大学との連携を活用し、現在進めている大気・海洋調査により対応する。さらに、部局間連携協定先のオークランド工科大学・ニュージーランド応用生態学研究所がフィールドとしている南極での大気観測を実施し、南半球でのコントロールサイトとして観測データを活用する。
■ 特色 ■
地球規模での大気越境汚染として重要な地域は、環日本海域、オセアニア、および、アフリカのサハラ砂漠周辺と考えられている。本申請課題は、ほぼ同じ経度にある上記の2つの地域をカバーするとともに、ヒトの健康・生態系へ及ぼすリスクが高い多環芳香族炭化水素類の発生源・発生量が両者で異なるため、地球規模の越境汚染の全体像把握とその影響を評価し世界共通の環境基準策定に貢献できる。また、地球温暖化等、地球規模の環境変化にも対応可能な基盤データを取得することが可能である。
■ 優位性 ■
本申請課題の観測ネットワークは、連携協定を結んだ研究教育機関を結びつけて展開するため、計画初年度から夏季と冬季の同時観測等が実施可能である。また、令和2年度のリサーチプロフェッサーのPointing教授はシンガポールのYale-NUS collegeに在籍しており、モンスーンにより輸送されるインドネシアからのヘイズの影響を評価する。オークランド工科大学在籍時には南極での大気環境に関する研究の経験があり、現在でもオークランド工科大学とは共同研究を実施している。さらに、環日本海域環境研究センターは南極観測の担当部局であるニュージーランド応用生態学研究所と平成30年4月に部局間連携協定を締結している。したがって、我々が計画している地球規模の南北観測の中で、Yale-NUS collegeを軸に南半球の拠点形成と越境汚染研究を強力に推進できる。
■ 将来構想 ■
「越境汚染に伴う環境変動に関する国際共同研究拠点」として平成28年度に共同利用・共同研究拠点に認定され、現在に至るまで国際観測ネットワークを基盤に環日本海域における拠点形成を進めている。令和3年度までには、大気・陸域・海洋における広域の越境汚染の実態把握、ならびに、それぞれの環境を連携した上でヒト・生態系への影響評価手法を開発し、過去から現在までの状況を考慮した将来予測を実施する。令和4年度からの共同利用・共同研究拠点の継続には、さらに深化した計画とともに、他の地域との比較検討に基づく社会環境の変化・地球規模の気候変動の影響を考慮した展開を考える必要がある。本申請課題はその基盤を形成するために実施する。