植物を特徴づける大きな要因に「細胞成長能力の高さ」がある。植物細胞は分裂を終えた後、活発に成長し巨大化することで体積を増加させ、組織や器官を発達させる。一般に、植物細胞は動物細胞に比べ高い成長能力を有するとされており、この細胞能力の高さこそが地球上のバイオマス生産の原動力の主要因の一つである。現在、人類にとって喫緊の課題となりつつある、人口増加に伴う食糧不足、エネルギー枯渇問題の解決に向け、植物バイオマスの有効利用は重要度を増している。私は、「なぜ植物の細胞は活発に成長できるのか?」という疑問を分子レベルで解き明かし、それを利用した細胞成長制御技術を開発し、こういった課題の解決に貢献したいと考えている。私は、一口に「植物細胞は成長能力が高い」と言っても、実は植物種・細胞種ごとに細胞成長能力が大きく異なるという事実に着目し、「成長能力の高い植物種や細胞種と低い種では何が違うのか?」という素朴ながら根源的な疑問を解決することで、植物の活発な細胞成長能力の分子基盤を抽出できるのではないかと考え、複数の植物種・細胞種を比較する多元的な研究を展開してきた。そして、これまでに、①高い細胞成長能力を示す植物種では、細胞分裂を経ずに DNA複製を繰り返すことで細胞肥大を誘発する「DNA倍加(endoreplication)」が起こり、そこにDNA配列の変化を伴わないエピジェネックな制御が必要であること、②高い細胞成長能力を持つ植物種の中でも特に高い成長能力を示す細胞種では、細胞の特定の領域に細胞骨格を集積する極性化を起こすという、これまで知られていなかった新奇現象を発見してきた。しかし、それらを実現する分子メカニズムの解明には至っていない。そこで、本プロジェクトでは、「DNA倍加が起こる植物種と起こらない植物種でのエピジェネティック制御系の違いを生みだす鍵因子の同定」と「細胞骨格を集積させる分子メカニズムの解明」に取り組む。更に、イネ・ポプラのような細胞成長能力が低い有用植物に、高い細胞成長能力を示す細胞のみが有するメカニズムを導入し、植物の細胞成長の自在な制御という究極的な目標に挑戦する。そして、将来的な植物セルロースや食料増産を目指す工学・農学分野との融合分野の創生を目指した研究を展開する。