肺は常に外界と接し、喫煙や大気汚染、病原体などにさらされやすい臓器である。肺が繰り返し傷害を受けると、肺胞の破壊による気腔の拡大(気腫化)や細胞外基質の沈着(線維化)が起こり、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫)や肺線維症などを発症する。さらに近年臨床的に問題となっている気腫化と線維化が併存する気腫合併肺線維症は、重度の呼吸不全、肺癌や肺高血圧を合併しやすく予後不良である。気腫化と線維化は一見相反する病態であるが、なぜ両者が併存するのか不明であり、その発生機序は未だに解明されていない。肺の気腫化や線維化に関しては、従来肺胞腔側の上皮細胞や炎症細胞を中心に研究がなされてきたが、提案者は血管・間質周囲に存在する間質マクロファージの働きに注目してきた。そしてこれまでの研究から、間質マクロファージは機能的多様性を有し、間質マクロファージが血管や間質に働くことで気腫化・線維化を引き起こすことを発見した。これは、従来考えられていた肺胞側の上皮細胞傷害や炎症細胞浸潤ではなく、血管・間質に存在する間質マクロファージが気腫化や線維化の形成に関わることを見出した新たな知見である。本研究提案では、間質マクロファージの機能的多様性による肺の気腫化・線維化の病態解明に挑戦する。マウスモデルおよびヒト臨床検体を用いたマルチオミックス解析や、動的胸部X線写真による気腫化・線維化による肺血管構造と血流変化を解析することで、気腫合併肺線維症の発症メカニズムの解明を目指す。本研究により、これまで明らかにされていなかった気腫化と線維化の発生機序が明確になり、マクロファージや血管修復の観点から慢性呼吸器疾患の病態解明の糸口となる可能性がある。そして世界的に問題となっている慢性呼吸器疾患の新たな予防や診断、治療戦略の開発につながることが期待できる。