[研究の背景と目的]
代表者は「真に無菌のショウジョウバエ」を安定的に長期間維持する技術を世界に先駆けて確立した。そして、ショウジョウバエ腸内細菌の一つである乳酸菌が、オスの攻撃行動を制御していることを発見した。本研究では、乳酸菌がどのように脳機能の制御を行っているのか、そのメカニズムを解明することを目的として研究を行う。
[研究計画]
1.菌から宿主への情報伝達に関わる因子を同定するため、乳酸菌変異株を用いたスクリーニングを行う。
2.腸から脳への情報伝達に関わる因子を同定するため、腸管神経系を不活性化した個体の攻撃性を調べる。
[自己超克]
先行研究における「無菌ハエ」は、抗生物質により腸内細菌を除去して作出されている。しかし、抗生物質では全ての腸内細菌を完全に除去することができないうえ、神経毒性があることも知られている。また、特定の腸内細菌を無菌ハエに導入することが難しい。そのため、腸内細菌による宿主の脳機能制御に関するハエを用いた研究はあまり行われていない。代表者は、無菌マウスの作出に用いられるアイソレータをハエに応用することで、抗生物質を用いずに腸内細菌を完全に除去した無菌ハエを大量かつ安定的に維持できる方法を確立した。そのため本研究では、これまで行うことができなかった無菌ハエの本能行動の解析や、腸内細菌の変異株ライブラリーを用いた大規模スクリーニングを実施することが可能となった。
[学術的意義や将来展望]
本研究の完成時には、哺乳類においてもこれまで明らかとなっていない腸内細菌による脳機能制御メカニズムの一端がわかる。また、本研究で得られた知見を哺乳類に応用することで、精神疾患に対する新たな治療法や機能性食品の開発につながることが期待される。