■ 概要 ■
イオンは科学のいかなる領域にも存在する概念であり、正電荷を持つカチオンと負電荷を持つアニオンに分類することができる。生体内はイオンで溢れかえっており、ナトリウムなどの金属イオンに限らず、DNAやアミノ酸などもイオンである。すなわち本来、生命とイオンというのは非常に相性が良い組み合わせである。しかし、人工的なイオンのほとんどは毒であるという思い込みから、生体環境での人工的なイオンの積極的利用は、薬剤以外ではほとんど進んでいない。その一方でプロジェクトリーダーである黒田と分担者である平田、小林は、分子間相互作用を基に生体毒性の低い双性イオンを人工的に開発し、それが細胞の凍結保存剤として強い効果を発揮することを報告した[K. Kuroda*, I. Kobayashi, E. Hirata* et al., Commun. Chem. 3, 163 (2020)]。このことは、人工的なイオンであっても生体への利用が可能であることを強く示唆している。さらに、この結果を化学の視点から覗くと、人工的であるからこそイオンの物性を緻密に制御可能であり、天然イオンでは本来達成不可能であった生体機能の制御、高機能化、解析を可能にしうるものと考えている。そこで、本プロジェクトでは人工イオン性材料でライフサイエンスを革新していくことを目標とする。本検討においては、豊富なイオン種と多彩なライフサイエンスアプリケーションを取り揃え、それら無限の組み合わせの中でポテンシャルが高いものを探し出し、機能を高めていく。
■ 特色と優位性 ■
これまで積極的に利用されてこなかった人工イオン性材料を新たに設計し、利用していく研究は非常にユニークである。本プロジェクトにはイオン性材料を設計する化学者が4名(および連携研究者2名)、それを応用するライフサイエンスの研究者が6名(および連携研究者2名、臨床医を含む)とバランスがとれた構成になっている。もちろんこのバランスは人数だけではなく、その内訳もバラエティに富むように構成されている。イオン設計においては、カチオン、アニオン、錯イオン、イオン液体、それぞれの専門家で構成されている。ライフサイエンス応用においては、微生物、植物、動物細胞(iPS細胞を含む)、組織、個体(魚類・マウス)それぞれの専門家で構成されている。これにより、幅広いイオン性材料の探索と、そのイオンに対する多彩なアプリケーションの提案が可能になる。これほどまでに化学と生物が大きく融合するプロジェクトは非常に稀である。
本プロジェクトは日本人の平均年齢が30代と非常に若いにもかかわらず、多くのPI、国家プロジェクト現役参画者、経験者が多数参画していることも一つの特色である。
■ 将来構想 ■
本プロジェクトの将来構想は「多種のイオン性材料を多彩なライフサイエンスアプリケーションへとつなげる国際研究拠点の形成」である。例えば、凍結困難な細胞の凍結保存が成功した暁には即世界的な普及につながると考えられる。
本プロジェクトでは既に実績を持つ若手研究者や、今後が期待される30代の研究者が参画しており、切磋琢磨することで、次世代を代表する人材を創出していく。また、国際共同研究の推進による国際共著論文の発表や国際的な研究ネットワークの充実を目指し、該当分野で世界200位以内に入ることも同時に目指していく。
プロジェクトリーダーである黒田は、化学者とライフサイエンティストとの間には共通言語が乏しく、大きな垣根があることを実感している。将来的にはイオンに限らず、化学と生物の垣根を取り払う拠点の形成および人材の輩出も大きな目標のひとつとしている。
「化学×ライフサイエンス」のコラボレーションにご興味のある化学者、ライフサイエンティスト、その他科学者は、いつでも拠点に参加することができます。お気軽に黒田までご連絡をいただけますと幸いです。 (kkuroda”at”staff.kanazawa-u.ac.jp、”at”を@にご変更ください)