世界的に急速に高齢化を迎える中、健康寿命の延伸は喫緊の課題となっており、分子生物学・分子遺伝学・生化学的アプローチを基盤とした老化の制御メカニズムを明らかにする研究の必要性とともに、高齢者の健康維持・疾病予防等を実現する技術開発が期待されています。そのような中、グリケーションに着目した老化研究の国際共同研究の推進を、日本メイラード学会・国際メイラード学会と共に協調して行い、その研究拠点の形成を目指します。
グリケーションと老化研究の国際共同研究の推進と拠点形成
グリケーション(糖化反応)とは、基本的には、グルコースに代表される還元糖のカルボニル基とタンパク質のアミノ基が非酵素的に反応し、最終糖化産物(advanced glycation end-products, AGE)の生成に至るまでの反応を示します。しかし、現在ではグリケーションは、より広い範疇で使用され、生体高分子のほとんどがグリケーションに曝されます。病態の一例で、例えば糖尿病のような慢性的な高血糖状態では、生体内のあらゆるところでグリケーションが亢進し、その最終産物であるAGEが蓄積することで、粥状硬化や糖尿病血管障害の発症、そして発がんにも繋がり、平均寿命の短縮が生じると考えられています。
また、老化とは、生物の機能が時間依存的に障害されることであり、広範囲にわたる細胞の構造・機能・生化学反応と代謝の変化の結果ととらえることができます。超高齢化社会を迎え、老年学や高齢者医療がますます重要な研究領域となってきています。老化は慢性的に蓄積する非酵素的な化学修飾反応とも捉えられ、生体分子すべてに傷害や損傷を与える「錆びや腐食」のようなものと考えられます。グリケーションは、そのような老化に関わる修飾反応の代表であり、生体内に存在するほとんどすべての生体高分子は、生命活動に伴って非酵素的なグリケーションを受け、生きている限り、これを避けて通れません。現在、健康寿命の延伸に向けた分野融合のアプローチを取り入れたグリケーションの研究推進が求められています。そして研究分野は多岐にわたり、医学・薬学はもとより食品化学・農芸化学・栄養学にまで広がり、産学連携も不可欠であると考えます。金沢大学本研究プロジェクトメンバー、日本メイラード学会・国際メイラード学会のアクティブメンバー、東京都総合医学研究所・新井誠博士、ハーバード大学Shoelson教授・Lee助教授、ニューヨーク大学Schmidt教授とともに、そしてさらに相互の有機的な連携により国際共同研究を展開していきます。
グリケーションを基軸とした老化の基礎研究から応用研究への展開
本研究プロジェクトでは、①グリケーション反応 ②最終産物AGE ③最終糖化産物の分解消去系 ④体外由来のグリケーション産物 ⑤グリケーションの分解物についての研究を推進し、老化の制御へと繋げていきます。将来的に、共同で進めた本研究プロジェクトは、老化の基礎研究だけにとどまらず、診断・創薬などの応用研究へと発展させていきます。